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summary judgment [単語・表現]

先日、ある金融関係文書の翻訳をしていてsummary judgmentという言葉が出てきて、これをどう訳するかかなり迷った末、そのときは「略式判決」とした。悩んだのは、『英米法辞典』のsummary judgmentの項に以下の記述があるからである。

summary judgment 正式事実審理を経ないでなされる判決 (略)「略式裁判」という訳は、「略式手続」を想起させるなど、summary judgmentと異なるイメージを与えるので、避けた方がよい.

普段愛用し信頼している辞書にこう書かれると、「略式」という言葉を使うのは非常にためらわれる。ところで、同辞典でいう「略式手続」とは、当然日本の「略式手続」のことであろう。『法律学小辞典(第4版補訂版)』の「略式手続・略式命令」の項をみると以下のとおりである(記号を略)。

公判を開かず書面審理だけで刑を言い渡す簡易な刑事裁判手続を略式手続といい、…略式手続は、簡易裁判所が100万円以下の罰金または過料を言い渡す場合であって、被疑者が略式手続によることに異議のない場合に、起訴と同時の検察官の請求(略式起訴)によって行われる…

私は日本の訴訟法に明るくないせいか、『英米法辞典』がいうように「略式手続」を想起する人がそれほど多いとは思えない。しかし、「略式起訴」といった言葉は報道等でよく耳にする。正式な意味は知らなくても、「略式」という言葉から「軽微な事件のための簡易な手続き」というイメージを持つ人がいてもおかしくはない。しかし、こちらのページでも指摘されているように、『英米法辞典』の「正式事実審理を経ないでなされる判決」は説明であって、これをそのまま訳語とするわけにもいかない。

一方、『英米商事法辞典』では以下のように説明されている。

summary judgment 【略式裁判,簡易判決】略式手続(summary proceedings)によってなされた裁判。重要な事実についての争点がない場合になされる。(以下略)

また、形容詞のsummaryをリーダーズ英和辞典で引くと「要約した, かいつまんだ; 手短かな (brief); 【法】 略式の, 即決の (opp. plenary); 手っ取り早い, 即座の.」となっているので、「略式裁判」あるいは「略式判決」としても、決して間違いではないと思う。

参考書の記述を調べてみたところ、アメリカ法ベーシックス・シリーズの『アメリカ民事手続法(第2版)』では「サマリ・ジャッジメント」と音訳しており(初出箇所では英文を併記)、同シリーズの『アメリカ契約法(第2版)』では、「略式判決(summary judgment)」となっている。

専門家向けの翻訳であれば、「サマリ・ジャッジメント」と音訳するか、訳語に原文を併記するのがよいように思う。しかし、英米法に知識がない人には、「サマリ・ジャッジメント」ではなんのことやらわからないだろうし、「略式裁判」等に原語の"summary judgment"を併記しても、それが日本法上の「略式手続」とは異なるものだというメッセージにはならないだろう。原文と厳密に対応することが要求されない文書では、「正式事実審理を経ない判決(裁判)」といった説明を補うのが親切だと思う。

(追記)

『英米法辞典』の編集代表である田中英生教授の『英米法総論(下)』では、summary judgmentは英文のまま表記されており、本文中の初出箇所では、「正式事実審理を経ないでなされる判決」との括弧書きがついている。また、これを「略式判決」と呼ぶことは、『英米法辞典』に示したのと同様の理由により適当でない旨の注記がある。


英米法辞典

英米法辞典

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東京大学出版会
  • 発売日: 1991/05/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



法律学小辞典 第4版補訂版

法律学小辞典 第4版補訂版

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 有斐閣
  • 発売日: 2008/10/27
  • メディア: 単行本



英米商事法辞典

英米商事法辞典

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 商事法務研究会
  • 発売日: 1998/04
  • メディア: 単行本



リーダーズ英和辞典

リーダーズ英和辞典

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 研究社
  • 発売日: 1999/04
  • メディア: 単行本



アメリカ民事手続法 第2版 (アメリカ法ベーシックス)

アメリカ民事手続法 第2版 (アメリカ法ベーシックス)

  • 作者: 浅香 吉幹
  • 出版社/メーカー: 弘文堂
  • 発売日: 2008/09/26
  • メディア: ハードカバー



アメリカ契約法第2版 [アメリカ法ベーシックス]

アメリカ契約法第2版 [アメリカ法ベーシックス]

  • 作者: 樋口 範雄
  • 出版社/メーカー: 弘文堂
  • 発売日: 2008/05/09
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英米法総論 下

英米法総論 下

  • 作者: 田中 英夫
  • 出版社/メーカー: 東京大学出版会
  • 発売日: 1980/12
  • メディア: 単行本



法律英語の基礎知識 [参考書]

企業の法務部員であった頃、部内で毎月回覧している雑誌に『国際商事法務』という国際法務の専門誌があった。読んで面白いとは決していえないその雑誌の中で、唯一私が読むのを楽しみにしていたのが、故早川武夫神戸大学名誉教授の『英文契約の解釈とドラフティング』という連載だった。

英文契約に接する者にとっての各種の有益情報が、時折脱線することのある軽妙洒脱な文章で綴られており、仕事中に読んでいて思わず吹き出してしまうようなこともあった。いつか大きな図書館へ行って、この連載のコピーを全部とって読み直したいと思っているのだが、なかなかその機会がない。しかし、そんな私の欲求を多少なりとも満たしてくれたのが、この『法律英語の基礎知識』である。

この種の本としては珍しいことであるが、序章は、1960年に早川先生が母校の名古屋商業学校で行った自身の経歴を語った講演録である。これが大変面白い。東京帝国大学卒業という経歴からすると順風満帆のエリート人生のようだが、決してそうではない。商業学校を卒業後、満州事変後の就職難のため鼻緒職人見習い、水道局の検針係を経て小さな商社に就職。そこで英文レターの仕事を経験し英語に開眼したことが転機となる。

その後苦学しながら教員検定試験に合格、師範学校等の教師を経て、旧制高等学校、東京帝国大学文学部に進学。「弁護士になって金もうけしよう」と法学部に転部。錠剤ヒロポンを飲みつつ勉強に励み、みごと文官高等試験に合格するも学者の道に転じる。そしてアメリカ留学を果たし、ヨーロッパを無銭旅行して帰国。ざっとまとめると、このような一大立志伝であるが、早川先生のユーモア感覚、少々の毒気、文章の歯切れの良さは、こうした叩き上げの経歴と無縁ではないと思う。

この序章のタイトルは「頑張れ、諸君!」となっている。不遇な境遇でも決してあきらめるなという母校の在校生に向けた暖かいメッセージである。世の中の酸いも甘いもかみ分けたらしい先生の言葉だけに説得力がある。

さて、この本の本論部分は「理論編」と「実践編」に分かれ、後者は共著者の椙山敬士弁護士による実際の英文契約等を題材とした対訳例とその解説である。前者は、早川先生のスピード感のあるエッセイ風の文章で、法律英語の特徴が豊富な具体例を交えて説明されている。が、論旨展開は時として非常に早い。実用的な知識ももちろんあるが、法律用語に限らずあらゆる言語現象に関する様々のトリビアが散りばめられていて、読んでいて飽きない。例えば、身元不明の行き倒れ人などを指すジョン・ドゥ、ジェーン・ドゥの起源、manholeが差別語だとしてpersonholeとなった話等々。

但し、具体例は時に卑近に過ぎると感じられるものもある。例えば、入れ子状のorの解釈に関して引用されているVirginia Code Ann. §18.2-361 (1975)は次のようなもので、「先生、何を考えているんですか」と苦笑せざるを得ない。それにしても、Virginia という名前だけのことはある。

If any person carnally know in any manner any brute animal, or carnally know any male or female person by the anus or by or with the mouth, or voluntarily submit to such carnal knowledge, he or she shall be guilty of a Class 6 felony

私がこの本で最も強く感銘を受けたのは、「第4章 一見やさしい語句」のandとorとand/orに関する部分である。明々白々だと思われているandとorの意味が決してそうではなく、お互いに重なり合う部分があること、また賛否両論あるand/orの歴史、その意味し得る範囲と使用にあたっての注意点等が、約20ページにわたって詳細に論じられている。

椙山弁護士は、この箇所の難解な部分は読者によっては飛ばしてもよいだろうと前書きでいわれている。難解というのは確かにそうかもしれない。私自身、完全に納得したとはいえない部分がある。しかし、私にとっては言葉の多義性というものに眼を開かせてくれた極めて貴重な論述である。

早川先生は、「はしがき」で「法の解釈とは言語の解釈にほかならない」と書かれ、一方で「実践編」の「おわりに」では椙山弁護士が以下のように語られている。

法律英語を学ぶということは、言語としての英語にとどまらず、結局は、当該法分野ひいては法制度全体の理解をするということになる。…翻訳というのは、本来異なる言語、文化体系にあるものを移行させようというものであるから、困難な作業である。…結局は、自国および他国の言語、制度、文化をできるだけ理解して、誤りを減らしていく、ということに尽きるようである。

当たり前のことをいわれているようであるが、本書を読み終えると非常に含蓄のある言葉だと感じる。

法律英語の知識が身に付くだけにとどまらず、英語を含む言語全般について格段に視野を広くしてくれる一冊であると思う。また、英語、日本語いずれの索引も充実しているので、辞書代わりにも使える大変有り難い本である。


法律英語の基礎知識

法律英語の基礎知識

  • 作者: 早川 武夫
  • 出版社/メーカー: 商事法務
  • 発売日: 2005/10
  • メディア: 単行本



from time to time [単語・表現]

from time to timeは、ほぼ常に「随時」と訳している。あるとき翻訳会社の方から、「随時」としてあるのはなぜかと聞かれたことがある。そのときは、法律文書ではこれが定訳だと思う旨説明したのだが、少々乱暴な答え方であったと反省している。そこで、英語のfrom time to timeについて改めて調べてみた。

・新英和大辞典
時々, 折々 (once in a while). 《1423》

・新英和中辞典
時々 (now and again).

・契約・法律用語英和辞典
随時 適宜(てきぎ) そのつど(文例は略した)

・Webster's New Collegiate Dictionary
once in a while; OCCASIONALLY

http://www.audioenglish.net/dictionary/from_time_to_time.htm
Meaning: Now and then or here and there   Synonyms: at times; from time to time; now and again; now and then; occasionally; on occasion; once in a while

英辞郎on the WEB(契約条項の文例にあったもの)
その時々に 適宜 必要に応じて 随時

なお、http://oshiete.goo.ne.jp/qa/3365815.htmlである方が説明されているところによると、from A to Aという表現には、「(ア)たくさんあるAを次々に見ていっている感じ、(イ)端から順番にではなく順不同に見ていっている感じ、(ウ)定期的にではなく不定期に見ていっている感じ」のニュアンスがある旨の説明がされていて、説得力を感じる。また、『(改訂新版)英文法解説』のP128 には、以下の文例が載っている。

They went from door to door asking for donation. (1軒1軒寄付を募って歩いた)

これらからすると、from time to timeは確かに「時々」、「折々」の意味もあるのかもしれないが、単に頻度が少ないことを表しているだけではないようである。英文契約では、『契約・法律用語英和辞典』にある「随時」や「その都度」が妥当である場合が多いように思う。但し、同辞典にある「適宜」については、『スーパー大辞林 3.0』の以下の記述にあるように態様を示す言葉なので、頻度を表すfrom time to timeとは少し違うように思う。

① その場に合っていること。ちょうど適していること。また,そのさま。適当。 「−な処置」 ② 個々の状況に合わせて行動するさま。副詞的にも用いる。 「各自−解散してよろしい」

また、英辞郎on the WEBにある「必要に応じて」も、意訳に過ぎるように感じる。


新英和大辞典 第六版 ― 並装

新英和大辞典 第六版 ― 並装

  • 作者: 竹林 滋
  • 出版社/メーカー: 研究社
  • 発売日: 2002/03/22
  • メディア: ハードカバー



新英和中辞典 [第7版] 並装

新英和中辞典 [第7版] 並装

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 研究社
  • 発売日: 2003/04/05
  • メディア: ペーパーバック



契約・法律用語英和辞典

契約・法律用語英和辞典

  • 作者: 菊地 義明
  • 出版社/メーカー: IBCパブリッシング
  • 発売日: 2004/03/01
  • メディア: 大型本



Webster's New Collegiate Dictionary

Webster's New Collegiate Dictionary

  • 作者: Merriam-Webster
  • 出版社/メーカー: Merriam Webster,U.S.
  • 発売日: 1983/10
  • メディア: ハードカバー



英文法解説

英文法解説

  • 作者: 江川 泰一郎
  • 出版社/メーカー: 金子書房
  • 発売日: 1991/06
  • メディア: 単行本



大辞林 第三版

大辞林 第三版

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 三省堂
  • 発売日: 2006/10/27
  • メディア: 大型本



have until ... toとhave ... to [単語・表現]

have until (日時) to...とは、「(日時)までに…を行う」といった意味らしい。私がこの表現を契約書でみたのは2回だけである。いずれも同一企業を一方当事者とする契約で、同じ弁護士が起案したものと思われた。うち1つは以下のような文であった。

AAA shall have until the Closing Date to respond to BBB.

いずれの契約も全体的にきちんとした英文で書かれていたと思う。しかし、その頃は不勉強なためこの言い方を知らず、今から考えると大変恥ずかしいことであるが、間違いではないかとコメントしてしまった記憶がある。

この表現は検索するとかなりヒットするので、英米では珍しいものではないようである。しかし、手持ちの英和辞書でこれについて説明しているものは見当たらなかった。インターネット上では、以下のページを含め、この表現について論じているページがいくつかあった。

http://resilience0128.blog100.fc2.com/blog-category-4.html
http://oshiete.goo.ne.jp/qa/3746316.html

同じような表現として、デンマークの言語学者イェスペルセンが著した『文法の原理〈上〉(岩波文庫)』の「語群」という見出しの項(P256)に以下の例文が載っている。

You have till ten to-night. (今夜の10時まで待ってやる)

この文は『現代英文法講義』の「3.2 目的語」の「⑧前置詞句」の項(P35)でも引用されている。出典はスチーブンソンの『宝島』らしい。

上は目的語の例だが、前置詞句が主語となる場合の例も、『現代英文法講義』と『ロイヤル英文法』で紹介されている。以下は『ロイヤル英文法(改訂新版)』の「§322 前置詞つきの句の用法」のうち「3 名詞用法」(P670)にある例文の1つである。

After school is the busiest time at Mr. Stone's shop. (学校が終わってからがストーンさんの店の一番忙しい時間である)

私は文法にはあまり明るくないが、要するに前置詞句が名詞句のように機能する場合があるということらしい。そして、until (日時)やtill (日時)といった句がhaveの目的語となったときは、その日時がある行為を行う期限となるということのようだ。

ところで、そのようなhaveの用法としては、have (期間) toという表現もあり、こちらの方が契約にはよく出てくると思う。例えば以下のようなものである。

In such event, Seller shall have 30 days to provide written notice to Buyer.

この猶予期間を意味するhaveの用法も、調べた限りではどの辞書にも出ていないのは不思議である。


文法の原理〈上〉 (岩波文庫)

文法の原理〈上〉 (岩波文庫)

  • 作者: イェスペルセン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2006/05/16
  • メディア: 文庫



現代英文法講義

現代英文法講義

  • 作者: 安藤 貞雄
  • 出版社/メーカー: 開拓社
  • 発売日: 2005/10
  • メディア: 単行本



ロイヤル英文法―徹底例解

ロイヤル英文法―徹底例解

  • 作者: 綿貫 陽
  • 出版社/メーカー: 旺文社
  • 発売日: 2000/10
  • メディア: 単行本



as applicable [単語・表現]

企業の法務部員だった頃、as applicableをas the case may beと同様に「場合に応じて」と訳していた記憶がある。例えば、"If..., this Agreement may be terminated by AAA or BBB, as applicable" といったセンテンスなら、「…場合、本契約は、場合に応じてAAAまたはBBBが終了させることができる」としていた。

なぜこのように訳していたのかは憶えていないが、たぶんそれなりの根拠があったのだと思う。検索すると、少数ではあるが、そのように訳している例もある。

しかし、利用できる辞書、参考書等で改めて調べてみたところ、as applicableについて説明しているものは、ほとんどなかった。唯一、英辞郎on the WEBが「規定通りに」という訳を載せているが、どのような文脈に使われるのかよくわからない。

as applicableをweb検索すると、このフレーズの意味について質問している英語のページがいくつかヒットするので、外国の非英語ネイティブ、あるいはひょっとすると英語のネイティブにとっても、正確な意味をつかみにくい表現なのかもしれない。

文法的に分析すると、これはif necessaryやas appropriateなどと同様の省略表現ではないかと思う。『(改訂三版)英文法解説』の404頁には、「it is/wasの省略」という項目に「この場合のitは主節の内容を表す」との記述があり、以下の例文がある。

I'll check the list if (it is) necessary/possible. (必要ならば/できれば、リストをもう1度チェックしよう)

これと同様であれば、"as applicable"は"as it is applicable"を省略したものということになる。直訳すれば、「(主節の内容が)適切なものとなるように」ということだろうか。

最初に挙げた例文のようにorでつながれた名詞などの後に使われる場合は、as the case may beと同じように解すべき場合が多いと思う。それ以外の場合には、「個々の状況に合わせて行動するさま(スーパー大辞林 3.0)」という意味がある「適宜」という訳語が概ね適切ではないかと思う。


英文法解説

英文法解説

  • 作者: 江川 泰一郎
  • 出版社/メーカー: 金子書房
  • 発売日: 1991/06
  • メディア: 単行本



大辞林 第三版

大辞林 第三版

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 三省堂
  • 発売日: 2006/10/27
  • メディア: 大型本



英米法総論(上) [参考書]

この上巻は、主として英米法の歴史的発展の過程をまとめたものであり、「概観」、「イギリス法の歴史」、「アメリカ法の歴史」、「コモンウェルス」の4つの章から成っている。

英米法のとっつきにくさは、様々の面でのその二元性にあると思う。例えば、コモン・ローとエクイティ(衡平法)の二元性、それに英国では連合王国とスコットランド、イングランド等の各地域の二元性、アメリカでは州と連邦の二元性。いずれも基礎的知識として頭ではわかっていたつもりでも、日本法にはない特徴なので十分に理解することは難しいと感じる。

が、全360ページに小さい文字がびっしりとつまった本書をなんとか通読し終わると、たとえ細かい内容は忘れてしまうとしても、そうした二元性に対する感覚が確かに身についたようでうれしい。特に、独立戦争から南北戦争、その後の連邦と州のせめぎ合いに関する描写は、読んでいてとてもスリリングで面白かった。

但し、コモン・ローとエクイティについては、その区別が現代の法体系の中でどのような意味を持つのかまで十分にわかったとはいえない。イギリスでもアメリカでも、19世紀にはコモン・ローとエクイティが融合された旨の記述があるが、それは両者の区別が完全に意味を失ったということではないように思う。

現在の英文契約でも、at law or in equity(コモン・ロー上またはエクイティ上)、equitable remedy(エクイティ上の救済手段)、legal title(コモン・ロー上の権原)といった言葉をよく目にする。これらは単に古くさい表現を無意識に踏襲しているというだけではないように思われるが、そうした言葉を用いる実際上の意義はどこにあるのだろうか。下巻を読めばこうした疑問もある程度解決できるのかもしれない。いつになるかわからないが、そのときが楽しみだ。

いずれにせよ、法律英語というものが長い歴史、それもほんの百数十年前に発明された日本の近代法律用語とは比べものにならない長い歴史を背負った存在であることが非常によくわかる一冊であった。


英米法総論 上

英米法総論 上

  • 作者: 田中 英夫
  • 出版社/メーカー: 東京大学出版会
  • 発売日: 1980/03
  • メディア: 単行本



英米法総論 下

英米法総論 下

  • 作者: 田中 英夫
  • 出版社/メーカー: 東京大学出版会
  • 発売日: 1980/12
  • メディア: 単行本



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estate [単語・表現]

ProZ.com という翻訳者用サイトのあるページで、以下の英文中のestateをどのように訳せばよいかという質問がされている。

I further save and hold harmless the Released Parties from any claim or lawsuit by me, my family, estate, heirs or assigns, arising our of my participation in this activity including both claim arising during this activity or after I received my certification.

"from any claim or lawsuit by me, my family, estate, heirs or assigns"の部分からすると、このestateは、自然人あるいは法人であろうme, my family, heirs, assignsなどと同様に、請求や訴訟を提起できる存在らしい。とすると、行為能力を備えているということか。

estateは多義的な言葉で、例えば『契約・法律用語英和辞典』では、「不動産 不動産権 財産権 身分 地位」とある。だが、この文の文脈において、上記のような能力を有する存在を含み得るestateの訳語としては、「遺産財団」」とするしかないように思う。但し、「財団」を『法律学小辞典』で引くと、単に「一定の目的のために結合された財産の集合」とあり、日本の法律用語としての「財団」は、財団法人でない限り、行為能力も権利能力も持ち得ないとは思うが。

estateを「遺産財団」と訳している例としては、ファイナンシャル・ネットワーク 平成11年11月号というサイトの以下の記述がある。これによれば、「遺産財団」は、少なくとも納税義務の主体とはなり得るようである。

…アメリカでは、相続に際して個人の遺産を保全し、可能な限り個人の遺志に従って分配できるようにするため、すべての遺産はまず遺産財団(estate)に組み入れられます。そして、日本の相続税にあたる連邦遺産税の納税義務はこの遺産財団にあります。…

また、アメリア翻訳プロジェクト中の判例翻訳では、固有名詞のHogarth Estateを「ホガース遺産財団」と訳している。この中の"... Hogarth Estate signed a "waiver and consent" letter..."等の記載からすると、このホガース遺産財団は行為能力を有する存在のようだ。

手持ちの法律英語の専門辞書ではestateの意味として「遺産財団」と明確に書いてあるものはなかった。『英米法辞典』では、5つ目の意味として「遺産」とあるだけである。

『英米商事法辞典』はもう少し詳しい(が微妙な)書き方をしていて、「…また、この語は、財団的なもの、すなわち、死者、破産者、精神的無能力者、被後見人等の財産を意味することもある」との記述がある。しかし、「財団的」とはいかなる意味なのか。せっかく『英米法辞典』よりも踏み込んでいるのだから、もう少し詳しく説明してほしいところである。

また、Black's Law Dictionaryのestateの項目には以下の記載がある。

2. All that a person or entity owns, including both real and personal property. 3. The property that one leaves after death; the collective assets and liabilities of a dead person.

ここでは、そのようなestateがどのような性質、能力を有するかまでは書いていないが、これをみる限りでは「財団」、「遺産財団」という訳語も間違ってはいないと思う。

なお、手持ちの一般の英和辞書にも、estateを「財団」あるいは「遺産財団」としているものはなかったが、『新和英大辞典第5版』で、逆に日本語の「財団」を引くと、以下のような記載があった。

〔財団法人〕 a foundation; 〔全資産〕 an estate; (破産などの) assets; 〔融資団〕 a financial group; a syndicate. (略) 破産財団 a bankrupt's estate. 財団債権 a priority claim on a bankrupt estate. (略)

ところで、以下のようなPersonの定義条項がある。「人」の定義に含まれる以上、このestateは、行為能力も権利能力もある存在なのだろうと思う。文脈からは死者、破産者その他のいずれの財産なのか不明なので、この場合は「財団」とするよりほかないと思う。

"Person" shall mean any individual, corporation, trust, estate, partnership, joint venture, company, association, governmental bureau or agency, or any other entity regardless of the type or nature thereof.

ちなみに、『英米信託法概論』という本には、第三者による信託財産への執行の可否に関して、「信託財産の間接責任」、「信託財産の直接責任」という項がある。上記に引用した2つの契約条文に加え、この本のこうした表現からは、英米法においては財産(の集合体)が権利義務の主体となる場合が珍しくないという印象を受ける。しかしながら、果たしてその印象が正しいのか、また正しいとして、どのような場合にどのような範囲でそれが認められるのかについては、どうもよくわからない。

(追記)
『英米法辞典』のentityの項には、相続財産を含む旨の記述がある。


契約・法律用語英和辞典

契約・法律用語英和辞典

  • 作者: 菊地 義明
  • 出版社/メーカー: IBCパブリッシング
  • 発売日: 2004/03/01
  • メディア: 大型本



法律学小辞典 第4版補訂版

法律学小辞典 第4版補訂版

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 有斐閣
  • 発売日: 2008/10/27
  • メディア: 単行本



英米法辞典

英米法辞典

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東京大学出版会
  • 発売日: 1991/05/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



英米商事法辞典

英米商事法辞典

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 商事法務研究会
  • 発売日: 1998/04
  • メディア: 単行本



Black's Law Dictionary (Black's Law Dictionary (Standard Edition))

Black's Law Dictionary (Black's Law Dictionary (Standard Edition))

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: West Group
  • 発売日: 2009/06/25
  • メディア: ハードカバー



新和英大辞典 第5版 ― 並装

新和英大辞典 第5版 ― 並装

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 研究社
  • 発売日: 2003/07/11
  • メディア: ハードカバー



英米信託法概論

英米信託法概論

  • 作者: 海原 文雄
  • 出版社/メーカー: 有信堂高文社
  • 発売日: 1998/03
  • メディア: 単行本



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ビジネス法律英語入門 [参考書]

法務部門に配属されたときに一番最初に読まされたのが、長谷川俊明弁護士の『法律英語のカギ』の旧版だった。その本は残念ながら今手元にはないが、法律英語の特徴とそれを生み出した歴史的背景から話を始めるのは、この『ビジネス法律英語入門』と共通していたと思う。この先生が法律英語のエバンジェリストとして一流の人だと私が思うのもその点である。

witnessethやwhereasといった言葉が今も残っている契約英語の保守性、deem and consider、free and clear、null and voidといった同義語反復が多用されるようになった歴史的背景、action(訴訟)、consideration(約因)、instrument(証書)などのように一般的な言葉が特殊な意味を持つ事例、等々。

一刻でも早く専門知識を習得したいという人にとって、こうした話は一見迂遠に思われるかもしれない。しかし、こうした点を最初に押さえておくことは、その後の勘違いの防止、時間や手間の節約という点で非常に有益だと思う。

ビジネス法律英語入門 (日経文庫)

ビジネス法律英語入門 (日経文庫)

  • 作者: 長谷川 俊明
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
  • 発売日: 1994/11
  • メディア: 新書



新・法律英語のカギ―契約・文書 (法律英語シリーズ 1)

新・法律英語のカギ―契約・文書 (法律英語シリーズ 1)

  • 作者: 長谷川 俊明
  • 出版社/メーカー: レクシスネクシスジャパン
  • 発売日: 2009/01/12
  • メディア: 単行本



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shallとwill [単語・表現]

『英文ビジネス契約書大辞典』(山本孝夫)の「自分の側の義務を規定する用語-will」という項目(P462~)から抜粋する。
"will"も契約書の中でよく使われる用語である。…ただし、どちらかといえば、契約交渉での立場の強い側が自分の側の義務を規定する場面で使う傾向がある。したがって、実際の契約での使用例を見ていると、義務を規定する場合に、その意味と程度が"shall"と比べて、やや曖昧不明瞭で弱いのではないかという感じがする。これは感覚の問題であって、理論や判例を調べれば解決するという問題ではない。実務担当者が交渉するときに感じる感覚、不安感といってもいい問題である。…

これに続けて、相手側の義務については"will"が使用され、こちらの義務については"shall"が使用されている契約案を先方から受け取ったときの対処例が書かれている。有益な情報だと思うが、その部分は本題から離れるので省略した。

『英文契約書の基礎知識』(宮野準治/飯泉恵美子)の45Pでは、willとshallについて次のように書かれている。
"will"は「未来」「推量」を表し、状況を客観的に説明する場合に使用します。また、「"shall"よりも柔らかい義務」「単なる期待」を表現したいときにも使用します。…

…契約書で"will"が義務を表す助動詞として統一的に使用されているのなら、…取り立ててこれを"shall"に修正する必要はないでしょう。しかし、契約義務の記載に"shall"と"will"が不統一に使用されているようなら、意味の違いの有無を確認する必要があります。


長谷川俊明弁護士の『ビジネス法律英語入門』(P175)では以下のとおり説明されている。
…"will"も契約書中では単純未来として現れることは多くありません。"shall"と同様に契約当事者の義務を表すことが多いのです。ただし"shall"に比べるとニュアンス的に多少弱い感じがします。…

なお長谷川弁護士は、こちらのサイトでもwillとshallの違いについて説明されている。

shallとwillが混在した契約は私もしばしば目にする。多くの場合、いろんな雛形から条項を寄せ集めたために不統一になっているだけのようである。だが中には、明らかに上に書いたような意味でwillとshallを使い分けていて、やらしいなと感じるものもある。

上述の著作はいずれも、willとshallをどのように訳し分けるかについてまでは書いていない。契約条項の訳例をみても、『英文ビジネス契約書大辞典』ではwillもshallも「ものとする」となっており、『英文契約書の基礎知識』ではどちらも「する」に統一されている。あくまで感覚的な違いなので、訳し分けることは無理だという判断だろうか。

私は多くの場合、shallは「~ものとする」、willは「~する」と訳し分けている。「もの」を広辞苑(第五版)で引くと、形式名詞として「そうあって当然のこと」とある。スーパー大辞林 3.0では、同じく形式名詞として、「(「ものとする」の形で)…することとする。 「甲はその責任を負う-とする(契約書ナドノ文言)」
」と出ている。

英語のwillとshallが日本語の「~する」と「~するものとする」と意味的に完全に対応するとは思えないが、若干「~ものとする」の方が義務の程度を強く感じる点でshallに近いように思われ、また少なくとも和訳から英文を推測する際の記号的な意味もあろうかと思い、そのように訳し分けている。


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entry of judgment [単語・表現]

米国の当事者が起案した仲裁条項には以下のようなセンテンスがよくでてくる。
The judgment on the arbitration award may be entered in any court having jurisdiction thereof.

会社の駆け出しの法務部員だったころ、これを次のように訳していた記憶がある。
「仲裁判断に基づく判決は、管轄権を有する裁判所にその執行を求めることができる。」

もともとはある契約を弁護士事務所に訳してもらったときの訳で、同様の条項が出てくるたびにそれを踏襲していたのである。弁護士の訳だから間違いはないのだろうが、正直なところ、なぜそのような訳になるのかはよくわからなかった。enterの解釈次第によっては、仲裁制度の趣旨には全くそぐわないのだが、一度出された仲裁判断についてあらためて裁判所に審査してもらうことができるという意味にも思われたのである。

『英文ビジネス契約書大辞典』(山本孝夫)のP150には、次のような訳例が載っている。
Judgment on such award may be entered in any court having jurisdiction thereof.

仲裁判断は、管轄権を有する裁判所で執行判決を得ることができる。


『英文契約書の基礎知識』(宮野準治/飯泉恵美子)のP205では、『英文ビジネス契約書大辞典』と同じ英文を以下のとおり訳している。また、be enteredは「(仲裁判断は裁判所に)登録される」という意味であるとの簡単な解説がある。
当該仲裁判断に基づく執行判決は、管轄権を有する裁判所に登録できる。


『英米法辞典』のentry of judgmentの項(P297)には、「判決登録 Judgment*(判決)を裁判所の記録に登録する行為(以下略)」という説明がある。これからしても、おそらくenterは「登録する」と訳するのが正しいのだろうが、仲裁のコンテクストでそれがどのような意味を持つのかは不明なままであった。

割に最近になって、中村達也という国際仲裁の専門家が書いた『国際商事仲裁入門』という本の「仲裁判断に基づく判決の登録」(P40~41)という項目を読み、ようやく長年の疑問が氷解した。以下はその抜粋である。
米国においては、仲裁契約の中で、仲裁判断に基づく判決は、その管轄権を有するいずれにおいても登録されうる(judgment may be entered uopn the award in any court of competent jurisdiction)旨規定されることが多い。これは以下の理由による。

米国においては、仲裁判断が任意に履行されず、裁判所による執行手続が必要となる場合、裁判所に対し仲裁判断を確認する決定(an order confirming the award)を求めることになる。(略)

このように、当事者は、連邦仲裁法9条により仲裁判断を確認する決定を得るためには、仲裁契約において仲裁判断に基づき判決が登録される合意をしておくことが求められる。したがって、米国判例法上、仲裁判断を判決に変容させるためには、仲裁契約において、この判決の登録に関する規定(entry-of-judgment stipulation)が要求される。(以下略)

連邦仲裁法9条はこちら

これに続いて、以下のような条項例とその訳例が記載されている。
Judgment on the award rendered by the arbitrator(s) may be entered in any court having jurisdiction thereof.

仲裁人によってなされた仲裁判断に基づく判決は、かかる管轄権を有するいずれの裁判所においても登録することができる。

私はこの訳がもっともストレートで正確であると思う(但し、「かかる」の訳語は違うと思う)。

(追記)
『英米商事法辞典[新版]』でentry of judgmentを引くと、以下のとおりであった。

entry of judgment [判決の記録記載] 判決のなされたことを裁判所の公式記録に書記官が記載すること。判決執行の前提としても必要である。金銭判決については、これにより他の債権者に優先する効力を生じることになる。

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entity [単語・表現]

英文契約の翻訳をしていて、最もやっかいだと感じる単語の一つである。

『英米法辞典』には以下の説明がある(一部記号等を省略または変更)。

-----------------------------------------

entity 1 法主体 訴訟当事者たる能力をもつ者という意味に用いられるのが通常だが、税法上は法人のほかpartnership、相続財産、信託を含むというように、法分野によって意味を異にすることがある.→legal entity
2 実体 Business entity (企業実体)のことを単にentityということが多い. 会計上、企業という経済主体をその所有主とは別個の存在と認めることにより、企業の財産と企業の資本という概念が成立し、bouble entry(複式簿記)が成立した.

-----------------------------------------

上記1の最後の文には、やや突き放されたような感を受ける。他の法分野、例えば契約法においてはどうなのかについても書いておいてほしいところだ。

legal entityを引くと以下のとおり。

-----------------------------------------

legal entity 法的実在;法的主体;法的人格 Corporation(法人)のように法的に機能し、権利の主体となり、当事者能力を有する自然人以外の主体.

-----------------------------------------

『Black's Law Dictionary Eighth Edition』の記述は以下のとおり。

-----------------------------------------

entity. An organization (such as business or an governmental unit) that has a legal identity apart from its members.

corporate entity. A corporation's status as an organization existing independently of its shareholders. ● As a seperate entity, a corporation can, in its own name, sue and be sued, lend and borrow money, and buy, sell, lease, and mortgage property.(略)

public entity. A governmental entity, such as a state government or one of its political subdivisions.

-----------------------------------------

この説明だと、entityの語自体は、日本語の「法人」とあまり違いはない印象を受ける。

『契約・法律用語英和辞典』(これは辞書というより訳語集、用例集というべきものだが)では、entityに以下の訳語が列挙されている。

-----------------------------------------

entity 事業体 企業体 組織体 統一体 法的存在者 法主体 事業単位 単位

(この下に、entityに形容詞の付いたaffiliated entity、business entity等の訳語も挙げられているが省略)

-----------------------------------------

最後に、2009年9月2日時点のWikipediaではLegal entityを以下のとおり説明している。

-----------------------------------------

The term legal entity is used:

to refer to a juristic person, an artificial entity that the law treats for some purposes as if it were a person, such as an incorporated organization.

as a general term to describe all entities recognized by the law, including both juristic and natural persons.

-----------------------------------------

このWikipediaの説明によれば、entityないしはlegal entityは、法人だけでなく自然人を含む場合もある、かなり広い意味をもった言葉のようである。『英米法辞典』にある「法主体」という訳語がもっとも正確にその意味を表しているように思うが、法律になじみのない人にとっては「法主体」といわれてもぴんとこないだろう。文脈と対象とする読み手に応じて、訳語も工夫する必要があると思う。


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procure that [単語・表現]

何年か前からprocureにthat節が付いたフレーズを目にするようになった。最初は間違いかと思ったが、その後割にしばしば見かけるので、契約英語ではある程度定着した表現になっているのかもしれない。例えば、次のようなものである。

Licensee shall procure that its directors, officers and employees keep secret and confidential the terms of this Agreement and confidential information.

procureを辞書で引くと、「獲得する」、「〈必需品を〉調達する」、「手に入れる」といった意味の他動詞である。手持ちの辞書、参考書をのきなみ当たったが、procureの目的語としてthat節がくる用法は出てこない。ウェブで検索しても、この用例の和訳例は見つからなかった。

単語を目的語としている場合の意味から類推して、that節の内容を実現する行為を行うという意味合いではないかと思い、私はprocure that...を「...するよう手配する」と訳することが多い。ただし、新英和大辞典によれば、procureにはcauseの意味もある。原文の書き手としてはもう少し強い意味、例えば「...するよう保証する」、「...となることを確保する」といったニュアンスで使っているのかもしれない。

(追記)
SPACEALKのビジネス英語辞書にprocure that somethingを「somethingであるよう取り計らう」としているのをみつけた。

http://home.alc.co.jp/db/owa/bdicn_sch?w=procure+that


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hereby [単語・表現]

herebyは一般に軽く見られているようだ。

『英文契約書の基礎知識(宮野準治/飯泉恵美子)48Pには、次のように書いてある。
契約書中の特に強調される条項の中で多く使用されます。たとえば、"The Seller hereby confirmas that..."とか"The parties hereto hereby agree that..."のように使用されますが、特にherebyがなくても意味は変わりません。


また故早川武夫教授と椙山敬士弁護士の書かれた『法律英語の基礎知識[増補版]』では、プレーン・イングリッシュ運動についての文脈においてではあるが、次のような記述がある(P117)。
…PE化の第一着手はhereby、whereas、withnessethなどのarchaismsを残らずひとまとめにしてゴミ棄場に投棄(dump)することである。…


他にも英文契約に関するサイトをみてみると、herebyは「訳出しない方が自然」、「正式な文章の感じになる」といった程度のことしか書かれていない。

herebyの言葉としての意味(「本契約により」、「これにより」等)は辞書や参考書をみればわかる。しかし、法律的な意味でherebyがどのような機能を果たしているかについて書かれている資料を目にしたことがない。本当にherebyは、あってもなくても意味は変わらず、ゴミのような価値しかなく、訳出すると不自然で、単にお堅い雰囲気を醸し出すためだけのものなのだろうか。

The parties hereby agree as follows: (当事者は、本契約により以下のとおり合意する。)

契約前文によく使われる上記のフレーズの場合、確かにherebyは不要のように思える。合意の手段として「本契約」を用いているのは自明だからである。しかし以下の場合はどうだろうか。

(1) X will assign A to Y. (XはYにAを譲渡する。)

(2) X hereby assigns A to Y. (Xは本契約によりYにAを譲渡する。)

(1)の場合は将来において譲渡を行う義務を負うのに対して、(2)では、まさにその契約により譲渡行為が行われるという意味の違いがあると思う。これは所有権の移転時期を判断するうえで非常に重要な点ではないだろうか。herebyがなくとも英語では助動詞の有無により上の区別ができるのかもしれない。が、和訳では通常willは訳出されないので、「本契約により」という訳語により(2)のニュアンスを表さざるを得ないと思う。

契約の翻訳は、原文に込められた意味を余すところなく日本語にすべきだと思う。多少冗長になるかもしれないが、herebyもきちんと訳出した方がよいと私は思う。


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