summary judgment [単語・表現]
先日、ある金融関係文書の翻訳をしていてsummary judgmentという言葉が出てきて、これをどう訳するかかなり迷った末、そのときは「略式判決」とした。悩んだのは、『英米法辞典』のsummary judgmentの項に以下の記述があるからである。
普段愛用し信頼している辞書にこう書かれると、「略式」という言葉を使うのは非常にためらわれる。ところで、同辞典でいう「略式手続」とは、当然日本の「略式手続」のことであろう。『法律学小辞典(第4版補訂版)』の「略式手続・略式命令」の項をみると以下のとおりである(記号を略)。
私は日本の訴訟法に明るくないせいか、『英米法辞典』がいうように「略式手続」を想起する人がそれほど多いとは思えない。しかし、「略式起訴」といった言葉は報道等でよく耳にする。正式な意味は知らなくても、「略式」という言葉から「軽微な事件のための簡易な手続き」というイメージを持つ人がいてもおかしくはない。しかし、こちらのページでも指摘されているように、『英米法辞典』の「正式事実審理を経ないでなされる判決」は説明であって、これをそのまま訳語とするわけにもいかない。
一方、『英米商事法辞典』では以下のように説明されている。
また、形容詞のsummaryをリーダーズ英和辞典で引くと「要約した, かいつまんだ; 手短かな (brief); 【法】 略式の, 即決の (opp. plenary); 手っ取り早い, 即座の.」となっているので、「略式裁判」あるいは「略式判決」としても、決して間違いではないと思う。
参考書の記述を調べてみたところ、アメリカ法ベーシックス・シリーズの『アメリカ民事手続法(第2版)』では「サマリ・ジャッジメント」と音訳しており(初出箇所では英文を併記)、同シリーズの『アメリカ契約法(第2版)』では、「略式判決(summary judgment)」となっている。
専門家向けの翻訳であれば、「サマリ・ジャッジメント」と音訳するか、訳語に原文を併記するのがよいように思う。しかし、英米法に知識がない人には、「サマリ・ジャッジメント」ではなんのことやらわからないだろうし、「略式裁判」等に原語の"summary judgment"を併記しても、それが日本法上の「略式手続」とは異なるものだというメッセージにはならないだろう。原文と厳密に対応することが要求されない文書では、「正式事実審理を経ない判決(裁判)」といった説明を補うのが親切だと思う。
(追記)
『英米法辞典』の編集代表である田中英生教授の『英米法総論(下)』では、summary judgmentは英文のまま表記されており、本文中の初出箇所では、「正式事実審理を経ないでなされる判決」との括弧書きがついている。また、これを「略式判決」と呼ぶことは、『英米法辞典』に示したのと同様の理由により適当でない旨の注記がある。
summary judgment 正式事実審理を経ないでなされる判決 (略)「略式裁判」という訳は、「略式手続」を想起させるなど、summary judgmentと異なるイメージを与えるので、避けた方がよい.
普段愛用し信頼している辞書にこう書かれると、「略式」という言葉を使うのは非常にためらわれる。ところで、同辞典でいう「略式手続」とは、当然日本の「略式手続」のことであろう。『法律学小辞典(第4版補訂版)』の「略式手続・略式命令」の項をみると以下のとおりである(記号を略)。
公判を開かず書面審理だけで刑を言い渡す簡易な刑事裁判手続を略式手続といい、…略式手続は、簡易裁判所が100万円以下の罰金または過料を言い渡す場合であって、被疑者が略式手続によることに異議のない場合に、起訴と同時の検察官の請求(略式起訴)によって行われる…
私は日本の訴訟法に明るくないせいか、『英米法辞典』がいうように「略式手続」を想起する人がそれほど多いとは思えない。しかし、「略式起訴」といった言葉は報道等でよく耳にする。正式な意味は知らなくても、「略式」という言葉から「軽微な事件のための簡易な手続き」というイメージを持つ人がいてもおかしくはない。しかし、こちらのページでも指摘されているように、『英米法辞典』の「正式事実審理を経ないでなされる判決」は説明であって、これをそのまま訳語とするわけにもいかない。
一方、『英米商事法辞典』では以下のように説明されている。
summary judgment 【略式裁判,簡易判決】略式手続(summary proceedings)によってなされた裁判。重要な事実についての争点がない場合になされる。(以下略)
また、形容詞のsummaryをリーダーズ英和辞典で引くと「要約した, かいつまんだ; 手短かな (brief); 【法】 略式の, 即決の (opp. plenary); 手っ取り早い, 即座の.」となっているので、「略式裁判」あるいは「略式判決」としても、決して間違いではないと思う。
参考書の記述を調べてみたところ、アメリカ法ベーシックス・シリーズの『アメリカ民事手続法(第2版)』では「サマリ・ジャッジメント」と音訳しており(初出箇所では英文を併記)、同シリーズの『アメリカ契約法(第2版)』では、「略式判決(summary judgment)」となっている。
専門家向けの翻訳であれば、「サマリ・ジャッジメント」と音訳するか、訳語に原文を併記するのがよいように思う。しかし、英米法に知識がない人には、「サマリ・ジャッジメント」ではなんのことやらわからないだろうし、「略式裁判」等に原語の"summary judgment"を併記しても、それが日本法上の「略式手続」とは異なるものだというメッセージにはならないだろう。原文と厳密に対応することが要求されない文書では、「正式事実審理を経ない判決(裁判)」といった説明を補うのが親切だと思う。
(追記)
『英米法辞典』の編集代表である田中英生教授の『英米法総論(下)』では、summary judgmentは英文のまま表記されており、本文中の初出箇所では、「正式事実審理を経ないでなされる判決」との括弧書きがついている。また、これを「略式判決」と呼ぶことは、『英米法辞典』に示したのと同様の理由により適当でない旨の注記がある。
2010-12-13 01:32