SSブログ

estate [単語・表現]

ProZ.com という翻訳者用サイトのあるページで、以下の英文中のestateをどのように訳せばよいかという質問がされている。

I further save and hold harmless the Released Parties from any claim or lawsuit by me, my family, estate, heirs or assigns, arising our of my participation in this activity including both claim arising during this activity or after I received my certification.

"from any claim or lawsuit by me, my family, estate, heirs or assigns"の部分からすると、このestateは、自然人あるいは法人であろうme, my family, heirs, assignsなどと同様に、請求や訴訟を提起できる存在らしい。とすると、行為能力を備えているということか。

estateは多義的な言葉で、例えば『契約・法律用語英和辞典』では、「不動産 不動産権 財産権 身分 地位」とある。だが、この文の文脈において、上記のような能力を有する存在を含み得るestateの訳語としては、「遺産財団」」とするしかないように思う。但し、「財団」を『法律学小辞典』で引くと、単に「一定の目的のために結合された財産の集合」とあり、日本の法律用語としての「財団」は、財団法人でない限り、行為能力も権利能力も持ち得ないとは思うが。

estateを「遺産財団」と訳している例としては、ファイナンシャル・ネットワーク 平成11年11月号というサイトの以下の記述がある。これによれば、「遺産財団」は、少なくとも納税義務の主体とはなり得るようである。

…アメリカでは、相続に際して個人の遺産を保全し、可能な限り個人の遺志に従って分配できるようにするため、すべての遺産はまず遺産財団(estate)に組み入れられます。そして、日本の相続税にあたる連邦遺産税の納税義務はこの遺産財団にあります。…

また、アメリア翻訳プロジェクト中の判例翻訳では、固有名詞のHogarth Estateを「ホガース遺産財団」と訳している。この中の"... Hogarth Estate signed a "waiver and consent" letter..."等の記載からすると、このホガース遺産財団は行為能力を有する存在のようだ。

手持ちの法律英語の専門辞書ではestateの意味として「遺産財団」と明確に書いてあるものはなかった。『英米法辞典』では、5つ目の意味として「遺産」とあるだけである。

『英米商事法辞典』はもう少し詳しい(が微妙な)書き方をしていて、「…また、この語は、財団的なもの、すなわち、死者、破産者、精神的無能力者、被後見人等の財産を意味することもある」との記述がある。しかし、「財団的」とはいかなる意味なのか。せっかく『英米法辞典』よりも踏み込んでいるのだから、もう少し詳しく説明してほしいところである。

また、Black's Law Dictionaryのestateの項目には以下の記載がある。

2. All that a person or entity owns, including both real and personal property. 3. The property that one leaves after death; the collective assets and liabilities of a dead person.

ここでは、そのようなestateがどのような性質、能力を有するかまでは書いていないが、これをみる限りでは「財団」、「遺産財団」という訳語も間違ってはいないと思う。

なお、手持ちの一般の英和辞書にも、estateを「財団」あるいは「遺産財団」としているものはなかったが、『新和英大辞典第5版』で、逆に日本語の「財団」を引くと、以下のような記載があった。

〔財団法人〕 a foundation; 〔全資産〕 an estate; (破産などの) assets; 〔融資団〕 a financial group; a syndicate. (略) 破産財団 a bankrupt's estate. 財団債権 a priority claim on a bankrupt estate. (略)

ところで、以下のようなPersonの定義条項がある。「人」の定義に含まれる以上、このestateは、行為能力も権利能力もある存在なのだろうと思う。文脈からは死者、破産者その他のいずれの財産なのか不明なので、この場合は「財団」とするよりほかないと思う。

"Person" shall mean any individual, corporation, trust, estate, partnership, joint venture, company, association, governmental bureau or agency, or any other entity regardless of the type or nature thereof.

ちなみに、『英米信託法概論』という本には、第三者による信託財産への執行の可否に関して、「信託財産の間接責任」、「信託財産の直接責任」という項がある。上記に引用した2つの契約条文に加え、この本のこうした表現からは、英米法においては財産(の集合体)が権利義務の主体となる場合が珍しくないという印象を受ける。しかしながら、果たしてその印象が正しいのか、また正しいとして、どのような場合にどのような範囲でそれが認められるのかについては、どうもよくわからない。

(追記)
『英米法辞典』のentityの項には、相続財産を含む旨の記述がある。


契約・法律用語英和辞典

契約・法律用語英和辞典

  • 作者: 菊地 義明
  • 出版社/メーカー: IBCパブリッシング
  • 発売日: 2004/03/01
  • メディア: 大型本



法律学小辞典 第4版補訂版

法律学小辞典 第4版補訂版

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 有斐閣
  • 発売日: 2008/10/27
  • メディア: 単行本



英米法辞典

英米法辞典

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東京大学出版会
  • 発売日: 1991/05/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



英米商事法辞典

英米商事法辞典

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 商事法務研究会
  • 発売日: 1998/04
  • メディア: 単行本



Black's Law Dictionary (Black's Law Dictionary (Standard Edition))

Black's Law Dictionary (Black's Law Dictionary (Standard Edition))

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: West Group
  • 発売日: 2009/06/25
  • メディア: ハードカバー



新和英大辞典 第5版 ― 並装

新和英大辞典 第5版 ― 並装

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 研究社
  • 発売日: 2003/07/11
  • メディア: ハードカバー



英米信託法概論

英米信託法概論

  • 作者: 海原 文雄
  • 出版社/メーカー: 有信堂高文社
  • 発売日: 1998/03
  • メディア: 単行本



nice!(0) 

nice! 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。